SAPの在庫管理には、通常の在庫とは異なる特殊在庫区分があり、それぞれ特定のビジネスニーズに対応しています。その中で「コンサイメント在庫(Consignment Stock)」は、企業と顧客、または企業とベンダー(供給者)の間で在庫を管理するための重要な区分です。この記事では、コンサイメント在庫の基本的な概念、区分「K(顧客)」と「W(ベンダー)」の違い、そして実際の業務プロセスについて、初心者向けに丁寧に解説します。
1. コンサイメント在庫とは?
コンサイメント在庫は、供給者(ベンダー)が企業に材料や製品を提供し、企業がその在庫を使用または消費した時点で費用が発生するビジネスモデルを指します。逆に、企業が顧客に在庫を預け、顧客がその在庫を使用した場合にのみ請求が発生するケースもあります。
コンサイメント在庫の主な特徴:
- 所有権の移転タイミング: 在庫が企業または顧客に物理的に移動しても、所有権は実際に使用または消費されるまで移転しません。
- コスト効率: 在庫が消費されたタイミングで初めて請求が発生するため、過剰な在庫コストを抑えられるビジネスモデルです。
- リスク分散: 供給者や顧客に在庫を預けておくことで、在庫リスクを分散できます。
2. 区分「K(顧客コンサイメント在庫)」の解説
**K(顧客コンサイメント在庫)**とは、企業が自社の製品や材料を顧客に預け、顧客が使用または消費した分だけを請求するモデルです。この在庫区分は、特に小売業や製造業でよく使用され、企業は在庫を顧客の施設に保管しながら、使用されるまで所有権を持ち続けます。
顧客コンサイメント在庫のメリット:
- キャッシュフローの改善: 顧客は、製品を実際に消費した時点でのみ支払いが発生するため、企業は大口顧客と長期的な取引を維持しやすくなります。
- 迅速な対応: 顧客は必要な時にすぐに製品を取り出して使用できるため、製品の供給時間を短縮できます。
- リスクの低減: 顧客に製品を預けておくことで、企業側は在庫の保管コストを削減しつつ、すぐに顧客のニーズに応えることができます。
業務プロセス
- コンサイメント在庫の設定: 顧客との契約に基づき、製品や材料を顧客の施設に納品しますが、この時点では所有権は企業に残ります。
- 在庫の使用: 顧客がその在庫を使用した場合、その分だけが消費されます。
- 請求処理: 顧客が使用した分について、企業が請求を発行します。使用されていない分については、引き続き顧客の施設に保管されます。
- SAPでの処理: 顧客コンサイメント在庫の管理は、SAPのトランザクションコード「MB1B」(在庫移動)を使用して処理されます。顧客が使用した分は「MRKO」(コンサイメント清算)で請求処理が行われます。
3. 区分「W(ベンダーコンサイメント在庫)」の解説
**W(ベンダーコンサイメント在庫)**とは、企業がベンダー(供給者)から材料や製品を受け取り、その在庫を使用した時点でベンダーに支払いを行うモデルです。この場合、ベンダーは在庫を企業の倉庫に納品しますが、所有権は実際に使用されるまでベンダーに残ります。
ベンダーコンサイメント在庫のメリット:
- 在庫リスクの削減: 企業は、実際に使用するまでは在庫の所有権を持たないため、在庫の持ち過ぎやリスクを軽減できます。
- キャッシュフローの最適化: 在庫が使用されるまで支払いが発生しないため、キャッシュフローの管理が容易になります。
- 在庫管理の効率化: ベンダーから直接企業の倉庫に在庫が保管されるため、管理や調達の手間が削減されます。
業務プロセス
- コンサイメント在庫の受領: ベンダーが企業の倉庫に在庫を納品しますが、所有権はベンダーに残ったままです。
- 在庫の使用: 企業がその在庫を使用した時点で、所有権が企業に移転し、ベンダーに支払い義務が発生します。
- 請求処理: 使用された分についてのみ、ベンダーに対して支払いが行われます。
- SAPでの処理: ベンダーコンサイメント在庫の受領と管理は「MIGO」(入庫/出庫処理)で行われ、在庫が使用された時点で「MRKO」で清算が行われます。
4. コンサイメント在庫の活用例
活用例1: 小売業における顧客コンサイメント在庫
スーパーマーケットチェーンがメーカーから大量の商品を預けられ、実際に消費者が購入した分だけメーカーに支払いが発生するケースです。スーパーマーケットは在庫リスクを持たず、必要な在庫をすぐに供給できます。
活用例2: 製造業におけるベンダーコンサイメント在庫
自動車メーカーが、サプライヤーからエンジン部品を供給され、その部品を使用した際にサプライヤーに支払いが発生するケースです。自動車メーカーは、必要な部品をすぐに使える状態にしておくことで生産ラインを停止させることなく運用できます。
5. SAPでのコンサイメント在庫管理方法
SAPシステムでは、コンサイメント在庫の管理に複数のトランザクションコードを使用します。主なトランザクションは以下の通りです。
顧客コンサイメント在庫:
- MB1B(在庫移動): 顧客に対して在庫を移動する際に使用します。
- MRKO(コンサイメント清算): 顧客が使用した在庫分を清算し、請求処理を行います。
ベンダーコンサイメント在庫:
- MIGO(入庫/出庫処理): ベンダーからのコンサイメント在庫を受け入れます。
- MRKO(コンサイメント清算): 企業が使用した在庫分を清算し、ベンダーに支払いを行います。
まとめ
**SAPの特殊在庫区分「コンサイメント在庫」**は、企業と顧客、または企業とベンダーの間で在庫を効率的に管理し、キャッシュフローや在庫リスクを最小限に抑えるための強力なツールです。顧客コンサイメント在庫は、顧客に対する迅速な供給を可能にし、ベンダーコンサイメント在庫は、企業が供給者から在庫を持つリスクを軽減します。
この在庫管理を適切に活用することで、ビジネスの柔軟性が向上し、コスト管理の最適化が期待できます。企業の在庫管理の一環として、コンサイメント在庫の導入を検討することで、より効果的な在庫運用が可能となるでしょう
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