SAPシステムにおける権限管理は、内部統制上のセキュリティと業務効率を保つ上で非常に重要です。
この記事では以下の3点を解説します:
初心者の方でも分かるよう、具体例を交えて詳しく説明します。ぜひ最後までご覧ください!
権限設定の目的
権限設定の目的は、業務の効率化と内部統制上のセキュリティの向上です。
例えば、ある社員が経理データを閲覧する必要がある場合、適切な権限を付与することで余計な作業を減らし、情報漏えいを防ぎます。
- 業務効率化: 必要な機能やデータだけにアクセスできるようにします。
- セキュリティ向上: 不要なデータや機能へのアクセスを制限します。
- 監査対応: 誰が何を操作したかを明確に記録します。
SAPシステムでは、ユーザーとロールは権限管理の基本的な要素です。権限を適切に設定することで、システム内のデータや機能が安全に利用されます。
SAP権限 ユーザーとロール
ユーザーとは?
ユーザーは、SAPシステムにアクセスする個人やシステムプロセスのことを指します。具体的には、以下のような特性があります。
ユーザーの種類
- ダイアログユーザー:
- システムにログインして操作を行う一般的なユーザー。
- 例:財務担当者や購買担当者。
- サービスユーザー:
- 複数のユーザーが共有する用途のためのユーザー。
- 例:一時的なトレーニングやデモンストレーション。
- システムユーザー:
- システム間の通信やバックグラウンド処理用。
- 例:データ連携処理やバッチジョブ。
- 参照ユーザー:
- 既存ユーザーの権限を共有するためのユーザー。
- 例:グループ権限を割り当てる場合。
ユーザー管理
ユーザーは、トランザクションコード SU01を使用して作成・管理します。 例えば、新規ユーザーを作成する場合:
- SU01を起動。
- ユーザー名を入力して「新規作成」。
- 必要なパラメータ(名前、メールアドレス、パスワードなど)を入力。
- 適切なロールを割り当てる。
ロールとは?
ロールは、特定の業務や機能に必要な権限をまとめたテンプレートです。ユーザーにロールを割り当てることで、必要な権限を付与します。
ロールの種類
- 単体ロール:
- 特定の業務に必要な最低限の権限を提供する。
- 例:購買業務の発注作成権限。
- 集合ロール:
- 複数の単体ロールをまとめて管理。
- 例:購買部門全体の業務に必要な権限。
ロールの管理
ロールは、トランザクションコード PFCGを使用して作成・管理します。 例えば、購買部門のロールを作成する場合:
- PFCGを起動。
- 新規ロール名を入力し、「作成」。
- トランザクションコードや権限オブジェクトを設定。
- 保存してユーザーに割り当て。
ユーザーとロールの関係性
ユーザーとロールは、役割と権限の紐付けを行うことで効率的な管理が可能です。
例
- 購買担当者Aには、購買業務(単体ロール)を割り当てます。
- 購買リーダーBには、購買業務に加えて承認業務(集合ロール)を割り当てます。
このように、ユーザーの業務内容に応じた権限付与が重要です。
権限管理の構造
SAPの権限管理は、複雑な業務要件に対応するため、階層的かつ柔軟な構造を持っています。以下に、権限管理の構造を詳しく解説します。
1. ロール
ロールは権限管理の中心であり、以下の要素で構成されます。
ロールの構成要素
- トランザクションコード(T-code):
- システム内の機能を呼び出すコマンド。
- 例:
ME21N
(購買発注作成)、FB01
(財務伝票作成)。
- CRUD操作:
- データに対する基本操作(登録・照会・変更・削除)。
- 例:閲覧専用ロールには「照会」だけを付与。
- 組織レベル:
- 部門や地域ごとに権限を限定。
- 例:関東支店のみデータ閲覧可能にする。
2. 権限オブジェクト
権限オブジェクトは、権限の詳細設定を行うパラメータです。1つのトランザクションコードに複数の権限オブジェクトが関連付けられます。
権限オブジェクトの構成
- フィールド:
- チェックする項目。
- 例:購買グループ、会社コード。
- 値:
- フィールドに設定される具体的な値。
- 例:購買グループ「100」、会社コード「JP01」。
設定例
- 権限オブジェクト
M_BANF_BSA
に値「NB」(購買依頼)を設定。 - この設定により、NBタイプの購買依頼のみ作成可能にする。
3. 権限項目
権限項目は、権限オブジェクトの中でさらに細かく設定可能な項目です。
例
- 権限オブジェクト
M_MATE_WRK
(品目権限):- 項目1:品目グループ。
- 項目2:プラント。
これにより、「特定のプラント内の品目グループだけを操作可能」といった詳細な制限が可能です
単体ロールと集合ロールの関係性
SAPシステムでは、権限管理を効率的に行うために「単体ロール」と「集合ロール」の2種類のロールが用意されています。それぞれの特徴を理解し、適切に活用することが重要です。
単体ロールとは?
単体ロールは、特定の業務に必要な権限を集約した最小単位のロールです。1つの業務プロセスや部門の機能にフォーカスした権限を提供します。
特徴
- 細かい設定が可能:単体ロールは、権限オブジェクト単位で詳細な設定ができます。
- 業務ごとに分割:部門や業務の種類ごとに作成されることが多いです(例:購買部門、会計部門など)。
- 再利用可能:同じ部門で役割が似ているユーザーに繰り返し割り当てられます。
例
例えば、「購買部門の発注業務」に必要なロールを作成する場合、
- トランザクションコード:ME21N(購買発注の作成)
- 関連する権限オブジェクト:
M_BANF_BSA
(購買依頼の権限)
集合ロールとは?
集合ロールは、複数の単体ロールをまとめたロールです。ユーザーに対して包括的な権限を一括して割り当てるために使用されます。
特徴
- 管理が簡単:複数の単体ロールを1つにまとめて管理できます。
- 一括割り当て:1つの集合ロールを割り当てるだけで、複数の業務に必要な権限を付与できます。
- 柔軟性:組織や役割に応じて単体ロールを自由に組み合わせることができます。
例
例えば、「購買部門の管理者」に必要な権限をまとめる場合、
- 単体ロール1:購買発注業務(ME21N)
- 単体ロール2:購買レポート閲覧(ME2N)
- 単体ロール3:購買依頼承認(ME54N)
これらをまとめて「購買管理者ロール」という集合ロールを作成します。
単体ロールと集合ロールの関係性
単体ロールと集合ロールは、部品と完成品の関係に例えられます。単体ロールがそれぞれの部品であり、集合ロールがその部品を組み立ててできた完成品です。
具体例
ケース:購買部門の業務権限の設定
- 単体ロールの作成:
- ロールA:購買発注作成(ME21N)
- ロールB:購買依頼承認(ME54N)
- ロールC:購買レポート閲覧(ME2N)
- 集合ロールの作成:
- 「購買担当者」:ロールAとロールCを含む。
- 「購買管理者」:ロールA、ロールB、ロールCをすべて含む。
- 割り当ての活用:
- 一般の購買担当者には「購買担当者」集合ロールを割り当てる。
- 管理業務も行うリーダーには「購買管理者」集合ロールを割り当てる。
メリット
- 効率的な管理:単体ロールを1つずつ割り当てる手間が省ける。
- 柔軟性:役割に応じて単体ロールの追加や変更が容易。
- 権限の一元管理:集合ロールを変更するだけで、全ユーザーの権限が更新される。
権限実機設定のフロー
SAPシステムで権限設定を行うには、以下の手順を踏む必要があります。具体的な作業内容を詳しく説明しますので、ぜひ参考にしてください。
1. 新規ロールの作成
- トランザクションコード[PFCG]を実行します。
メインメニューから「PFCG」と入力し、権限管理ツールを開きます。 - ロール名を入力して「作成」ボタンをクリックします。
ロール名はプロジェクト内でわかりやすい命名規則を使用します(例:「Z_FINANCE_USER」など)。 - 「説明」を入力します。
このロールの目的を簡潔に記載します(例:「財務部一般ユーザー用」)。 - 「保存」ボタンをクリックします。
ロールが一時保存され、編集可能な状態になります。
2. 権限オブジェクトの設定
- 「権限」タブを開きます。
ロール作成画面の中にある「権限」タブをクリックします。 - 「変更」ボタンをクリックして編集モードに切り替えます。
- 権限オブジェクトを追加します。
右側の「権限オブジェクト」セクションで「オブジェクト追加」を選択し、必要な権限オブジェクトを指定します(例:F_BKPF_BUK
)。 - 値を入力します。
各オブジェクトのフィールドに、許可する会社コードやユーザー操作(登録、照会など)を入力します。 - 「生成」をクリックします。
設定した権限オブジェクトがロールに適用され、プロファイルが生成されます。
3. ユーザーへのロール割り当て
- 「ユーザー」タブを開きます。
- 対象ユーザーを検索して追加します。
ユーザーIDを入力し、「ユーザー割り当て」ボタンをクリックします。 - 割り当てを保存します。
「保存」を押して、設定を確定します。
4. 動作確認
- 対象ユーザーでログインします。
- 権限が正しく機能しているか確認します。
必要なトランザクションが実行可能であることをチェックし、不要な権限が与えられていないことも確認します。 - エラーが発生した場合の対応
- エラーが発生した場合、SU53を実行して不足している権限オブジェクトを確認します。
- 必要に応じて設定を修正し、再度テストを行います。
記事のまとめ
この記事では、SAPの権限設定やロール管理について、基本から詳細まで学ぶことができました。以下に重要なポイントを箇条書きでまとめます。
学べたこと
- 権限設定の目的
- SAPシステム内のデータや機能を安全に利用するため、適切な権限設定が必要であること。
- ユーザーとロールの役割
- ユーザーはSAPシステムにアクセスする個人やプロセスを指し、ダイアログユーザーやシステムユーザーなど、用途に応じた種類があること。
- ロールはユーザーに割り当てられる権限のテンプレートで、単体ロールと集合ロールがあること。
- 単体ロールと集合ロールの違いと関係性
- 単体ロールは特定の業務に必要な最低限の権限をまとめたもので、集合ロールは複数の単体ロールを組み合わせて作成される。
- 集合ロールにより、管理の効率化が図れること。
- 権限管理の構造
- ロールはトランザクションコード(T-code)、CRUD操作、組織レベルといった要素で構成されていること。
- 権限オブジェクトと権限項目により、さらに詳細な権限設定が可能であること。
- 権限オブジェクトの重要性
- 権限オブジェクトは、トランザクションコードの実行時に適用されるチェックポイントであり、業務ごとに柔軟な設定が可能であること。
- 権限設定の具体的なフロー
- 権限設定の手順は、トランザクションコードSU21やPFCGを利用して行い、権限オブジェクトの更新やロール割り当てを行う流れを学んだこと。
おわりに
この記事を通して、SAPの権限設定における基本概念から具体的な作業手順までを幅広く理解することができました。適切な権限管理は、システムの安全性を高めるだけでなく、業務効率を向上させる重要な要素です。
特に、単体ロールと集合ロールの活用方法や権限オブジェクトの詳細設定は、実際のプロジェクトで非常に役立つ知識となるでしょう。これらの知識を活かして、実務での権限管理をより効果的に行ってください。
今回は「権限設定のガイド」として、概要や手順について解説しました。
権限設定ももちろん大切ですが、不随する機能を理解することで初めて実務で使えます。
以下の記事では「権限テーブル」「派生ロール」「権限トレース」について解説しているので、ぜひ合わせて読んでみてください。



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