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SAP導入初期に行う業務フロー整理の進め方― 機能検討に入る前に整理すべきポイント ―

SAPノウハウ

はじめに

SAP導入プロジェクトというと、SD・MM・FIといったモジュールや、
「どの機能を使うか」という話題から入るケースが少なくありません。
しかし実際のプロジェクトでは、業務フローの整理が不十分なまま機能検討に進んでしまい、後工程で大きな手戻りが発生することが多く見られます。

要件定義や設計フェーズで発生する混乱の多くは、
「SAPの知識不足」ではなく、業務整理の不足が原因です。

本記事では、SAP導入の初期段階で行うべき業務フロー整理の進め方について、
システム視点ではなく業務視点で解説します。
これからSAP導入に関わる方や、要件定義に苦手意識を持っている方の参考になれば幸いです。


なぜSAP導入の初期段階で業務フロー整理が必要なのか

いきなり機能検討から入ると何が起きるのか

SAP導入でよくある失敗パターンの一つが、
「まずはSAPで何ができるかを確認しよう」という流れです。

この進め方をすると、以下のような問題が起こりやすくなります。

  • モジュール単位(SD/MM/FI)で話が分断される
  • 部署間の業務のつながりが見えなくなる
  • 「この業務は誰の責任か」が曖昧なまま進む
  • 後から「想定していなかった業務」が大量に出てくる

結果として、
要件定義後半やテストフェーズで認識齟齬が発覚し、
スケジュール・品質の両面で大きな影響が出てしまいます。

業務フロー整理の目的は「SAPを決めること」ではない

業務フロー整理の目的は、
SAPの機能を決めることではありません。

本来の目的は、以下を明確にすることです。

  • 業務がどのような流れで行われているか
  • 誰がどの業務に関与しているか
  • 最終的な判断・責任は誰が持つのか
  • 業務の境界はどこにあるのか

これらが整理された状態で初めて、
「では、この業務をSAPでどう実現するか」という議論が意味を持ちます。


SAP導入初期に整理すべき業務フローの考え方

整理の順番は「業務 → 役割 → 責任 → システム」

SAP導入初期の業務整理では、考える順番が非常に重要です。
おすすめの順序は、次の通りです。

  1. 業務:どのような業務が存在するか
  2. 役割:どの部署・担当者が関与しているか
  3. 責任:最終的な判断・責任は誰が持つか
  4. システム:どこでSAPを使うか

ここで重要なのは、SAPは一番最後だという点です。

業務や責任が整理されていない状態でSAPの話をすると、
「SAPでできる/できない」という議論に引っ張られ、
本来あるべき業務の姿を見失ってしまいます。

フローは“正確さ”より“全体像”を優先する

業務フロー整理というと、
「例外ケースまで含めて正確に描かなければならない」と考えがちです。
しかし、導入初期ではそこまでの精度は必要ありません。

むしろ重要なのは、全体像を早く共有することです。

  • 受注から請求までの大きな流れが見えるか
  • 業務の受け渡しポイントが分かるか
  • 誰が主導している業務かが分かるか

初期段階では、
1プロセスあたり10〜15ステップ程度の粒度で十分です。


業務フロー整理でよく使われる切り口

IPO(Input / Process / Output)で業務を捉える

業務を整理する際に有効なのが、**IPO(Input / Process / Output)**の考え方です。

  • Input:業務の開始時に受け取る情報・成果物
  • Process:実施する作業
  • Output:次の業務に渡す情報・成果物

この切り口で整理すると、
「この業務は何を受け取り、何を次に渡しているのか」が明確になります。

結果として、
業務間の抜け漏れや責任の曖昧さに気づきやすくなります。

スイムレーンで“誰が何をしているか”を可視化する

もう一つ有効なのが、スイムレーンを使った整理です。

スイムレーンでは、
部署や役割ごとにレーンを分け、業務を配置していきます。

これにより、

  • 業務の受け渡しポイント
  • 部署間の依存関係
  • 特定の部署に業務が集中していないか

といった点が視覚的に把握できます。


業務フロー整理で必ず意識すべき「境界」

部署間の境界

SAP導入で特に重要なのが、部署間の境界です。

例えば、

  • 営業と物流の境界
  • 物流と経理の境界
  • 営業と製販調整部門の境界

これらが曖昧なままだと、
「誰が判断するのか」「誰が責任を持つのか」が不明確になります。

業務フロー整理では、
業務の流れと同時に責任の切れ目を明確にすることが重要です。

業務とシステムの境界

もう一つ重要なのが、業務とシステムの境界です。

すべてをSAPで完結させようとすると、

  • 過剰なアドオンが増える
  • 運用が複雑になる
  • 保守性が低下する

といった問題が起こりやすくなります。

「どこまでをSAPで行い、どこからは他システムや手作業で対応するか」
この判断も、業務フロー整理の段階で行うべき重要な検討事項です。


業務フロー整理ができているSAP導入の特徴

要件定義がスムーズに進む

業務フローが整理されているプロジェクトでは、
要件定義が非常にスムーズに進みます。

  • なぜその機能が必要なのか説明できる
  • 業務背景を踏まえた議論ができる
  • 機能の優先度が明確になる

結果として、要件定義の質が高まります。

後工程での混乱が少ない

業務フロー整理ができていると、
テストや運用フェーズでの混乱も大きく減ります。

  • 想定外の業務が出にくい
  • 問題発生時の判断が早い
  • 部署間で責任の押し付け合いが起きにくい

これは、初期段階での整理の効果が後工程まで効いている証拠です。


まとめ

SAP導入初期において最も重要なのは、
機能検討ではなく、業務フロー整理です。

  • 業務 → 役割 → 責任 → システムの順で考える
  • 全体像を優先して整理する
  • 境界を意識して業務を可視化する

これらを意識することで、
SAP導入プロジェクトは格段に安定します。

機能の話に入る前に、
一度立ち止まって業務フローを整理する。
それが、結果的に最短ルートになります。

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