SAPの在庫管理には、通常の在庫管理とは異なる特殊在庫区分が存在します。これらの特殊在庫は、所有権や利用目的が異なる在庫を管理する際に使用され、企業の在庫運用を効率化します。この記事では、各特殊在庫区分の使用例や具体的な業務プロセスを初心者にもわかりやすく解説します。
特殊在庫区分一覧
| 特殊在庫区分名 | 区分記号 | 説明 |
|---|---|---|
| プロジェクト在庫 | Q | 特定のプロジェクトに割り当てられた在庫。製造業や建設業で使用される。 |
| 受注在庫 | E | 顧客ごとの販売オーダーに関連付けられた在庫。カスタマイズ製品に使用される。 |
| コンサイメント在庫（顧客） | K | 顧客に預けられ、消費分のみ請求される在庫。小売業での消費型モデルに最適。 |
| コンサイメント在庫（ベンダー） | W | 供給者が企業に預けたが、所有権が移転していない在庫。消費時に支払いが発生する。 |
| 得意先用返却在庫 | V | 顧客に提供されるリターナブルな包装材や容器を管理する在庫。返却時に再利用される。 |
| サブコントラクター在庫 | O | サブコントラクターに提供されたが、企業が所有する在庫。製品完成後に戻ってくる。 |
| ベンダー預託在庫 | M | ベンダーから企業に提供され、使用時に費用が発生する在庫。企業の倉庫で管理される。 |
1. プロジェクト在庫（Project Stock）
区分: Q
プロジェクト在庫は、特定のプロジェクトや契約に関連する在庫を管理するために使用されます。例えば、大規模な建設プロジェクトや製造プロジェクトにおいて、プロジェクトごとに材料や部品を割り当て、他のプロジェクトと混ざらないように管理します。
業務プロセス
- 購買オーダーを作成し、特定のプロジェクトに割り当てた材料や部品を発注します。
- 在庫が企業に到着すると、その在庫はプロジェクト在庫として記録され、他のプロジェクトでは使用できません。
- プロジェクトの進捗に合わせて、在庫が消費され、完了時に在庫消費がプロジェクトに反映されます。
2. 受注在庫（Sales Order Stock）
区分: E
顧客からの販売オーダーに基づいて確保された在庫で、特定の顧客向けに商品を製造・調達する場合に使用されます。顧客に特注品やカスタマイズ製品を提供する際、この在庫区分が適用されます。
業務プロセス
- 顧客から販売オーダーを受け取り、オーダーに基づいて製品を製造します。
- 製品は「販売オーダー在庫」として他の顧客向けに使用されず、その顧客専用に管理されます。
- 顧客への出荷が完了するまで、この在庫は確保され続けます。
3. コンサイメント在庫（Consignment Stock）
区分: K（顧客）、W（ベンダー）
コンサイメント在庫は、供給者または企業が在庫を預けて管理し、消費または販売された分のみを請求するビジネスモデルです。例えば、企業が顧客に商品を預けて、実際に販売された分だけを請求する場合に使用されます。
業務プロセス（顧客コンサイメント在庫）
- 企業は顧客に製品を預けます。この時点では所有権は企業に残ります。
- 顧客が製品を使用または販売した場合、その分が企業に請求されます。
- 企業は消費された分だけを在庫から引き落とし、請求処理を行います。
業務プロセス（ベンダーコンサイメント在庫）
- 供給者が企業に材料を送りますが、所有権は供給者に残ります。
- 企業がその材料を消費した時点で、供給者に対して支払いを行います。
- 在庫は供給者の所有権のまま、企業内で管理されます。
4.得意先要返却梱包材（Returnable Packaging Stock）
区分: V
リターナブルなパレットやボトルなどの包装材がこの在庫区分に該当します。企業は顧客に商品を出荷する際にリターナブルな容器を提供し、返却された後に再利用します。
業務プロセス
- 製品とともにリターン可能な包装材を顧客に提供します。
- 顧客が包装材を返却すると、再利用可能な状態で在庫に戻ります。
- このプロセスにより、包装材の管理とコスト削減が実現します。
5. サブコントラクター在庫（Subcontracting Stock）
区分: O
サブコントラクターに提供された部品や原材料は「サブコントラクター在庫」として管理されます。この在庫はサブコントラクターによって加工・組み立てされますが、所有権は依然として企業にあります。
業務プロセス
- サブコントラクターに対して、部品や原材料を提供します。
- サブコントラクターがその材料を使用して製品を完成させます。
- 完成した製品が企業に戻ると、その製品は「完成品在庫」として管理されます。
6. ベンダー預託在庫（Vendor Consignment Stock）
区分: M
ベンダーから企業に提供され、消費時に初めて支払いが発生する在庫です。消費されるまで、所有権はベンダーに残ります。
業務プロセス
- ベンダーが企業の倉庫に在庫を送りますが、所有権はベンダーにあります。
- 企業がその在庫を消費した時点で、ベンダーに支払いが発生します。
- 消費された在庫は企業の所有に切り替わり、正常な在庫として管理されます。
まとめ
SAPの特殊在庫区分は、企業が所有権や管理方法を細かく制御するために重要な役割を果たします。これらの区分を使用することで、プロジェクトや顧客ごとに在庫を分けて管理し、業務プロセスの効率化やコスト削減が可能になります。この記事で紹介したように、特殊在庫区分はさまざまな業務シナリオに対応しており、適切な管理を行うことで、在庫の最適化が期待できます。
SAPを使って在庫をより効果的に管理するために、それぞれの特殊在庫区分の役割や使用方法を理解し、実際の業務に取り入れていきましょう。
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