SAPのCO(Controlling:管理会計)モジュールでは、標準原価計算は原価管理を効果的に行うための重要な手法です。標準原価計算では、製品やサービスごとの標準的な原価を計算し、それを基準に実際のコストと比較してコストの差異を分析します。このプロセスで「マーク」と「リリース」というステップが重要な役割を果たします。この記事では、標準原価計算の概要、マークとリリースの仕組み、必要なマスタ設定、トランザクションコードについて、初心者にもわかりやすく解説します。
1. 標準原価計算とは?
標準原価計算は、製品やサービスの製造や提供にかかる標準的な原価をあらかじめ計算し、それを基準として管理する手法です。この標準原価と実際原価の差異を分析することで、原価管理や改善点の発見に役立ちます。
標準原価計算のメリット
- 予算の設定と管理: 製品やサービスごとに標準原価を設定することで、予算を立てやすくなります。
- 差異分析: 標準原価と実際の原価を比較することで、コストの増減要因を分析し、改善施策を講じることができます。
- 価格設定: 製品の標準原価に基づいて、販売価格を決定する際の参考にすることができます。
2. 標準原価計算における「マーク」と「リリース」
SAPにおける標準原価計算プロセスでは、「マーク」と「リリース」という2つの重要なステップがあります。このステップにより、計算された標準原価を実際に運用データに反映させることが可能になります。
マーク(Mark)
- 目的: 計算した標準原価をシステム上に一時保存し、確認・検証を行う段階。
- 詳細: マーク処理では、計算された標準原価を一時的に登録します。この段階では、まだ会計や管理データに反映されておらず、実際の差異分析や管理には利用できません。
リリース(Release)
- 目的: マークされた標準原価を正式にリリースし、運用データに反映させる段階。
- 詳細: リリース処理が完了すると、その標準原価が正式なデータとして会計や管理会計で利用されるようになります。リリース後は差異分析の基準として利用されます。
3. 標準原価計算に必要なマスタ設定
標準原価計算を行うためには、以下のマスタデータを設定する必要があります。これらの設定により、標準原価の計算基準や適用範囲が決まります。
必要なマスタデータ
- 材料マスタ(Material Master)
- 製品や部品の基本情報を管理するマスタで、標準原価を計算する際の基準となる材料情報を保持します。
- トランザクションコード「MM01」で材料マスタを作成し、「MM02」で変更、「MM03」で参照します。
- 原価要素(Cost Element)
- 材料費や人件費、製造間接費といった各コスト要素を管理するためのマスタ。原価計算の基礎データとして利用します。
- トランザクションコード「KA01」で原価要素を作成し、「KA02」で変更、「KA03」で参照します。
- 品目原価見積(Cost Estimate for Material)
- 各品目の原価を見積もるためのデータで、標準原価計算においてマークおよびリリースを行う基礎データです。
- トランザクションコード「CK11N」で品目原価見積を作成し、「CK13N」で参照できます。
4. 標準原価計算の実行手順(マーク・リリースの流れ)
標準原価計算の実行には、以下の手順でマークとリリースを行います。
実行手順
- 品目原価見積の作成
- トランザクションコード「CK11N」で、対象の品目の標準原価を見積もります。ここで計算された原価がマークとリリースの対象となります。
- 原価のマーク(Mark)
- トランザクションコード「CK24」で原価をマークします。この段階では標準原価が一時保存され、まだ正式なデータとして使用されません。
- 原価のリリース(Release)
- トランザクションコード「CK24」で、マークされた標準原価をリリースします。リリースが完了すると、その原価データが正式に会計システムや管理会計データに反映されます。
5. 標準原価計算に関連するトランザクションコード一覧
標準原価計算を行う際に便利なトランザクションコードを以下にまとめます。これらを活用することで、マスタ設定や標準原価の計算・リリースがスムーズに進行します。
T-code | 説明 | 用途 |
---|---|---|
MM01 | 材料マスタの作成 | 新しい材料の基本情報を登録。 |
MM02 | 材料マスタの変更 | 既存の材料情報を更新。 |
MM03 | 材料マスタの参照 | 材料情報の詳細を確認。 |
KA01 | 原価要素の作成 | コスト要素を新規登録。 |
KA02 | 原価要素の変更 | コスト要素の情報を更新。 |
KA03 | 原価要素の参照 | コスト要素の詳細を確認。 |
CK11N | 品目原価見積の作成 | 対象品目の標準原価を計算。 |
CK13N | 品目原価見積の参照 | 作成した品目原価見積を確認。 |
CK24 | 標準原価のマークおよびリリース | 計算した原価をマーク・リリースして正式に反映。 |
6. 標準原価計算の実行例
たとえば、製品Aの標準原価を設定し、その原価を実際の生産や原価管理に利用する場合の実行例です。
実行例:製品Aの標準原価計算
- 品目原価見積: トランザクションコード「CK11N」で製品Aの品目原価見積を作成し、材料費や人件費をもとに標準原価を算出します。
- マーク処理: CK24を使用して計算された原価をマークし、データとして一時保存。
- リリース処理: CK24でマークしたデータをリリースして、正式に会計や管理会計データに反映。
このように、マークとリリースのステップを踏むことで、標準原価が正式なデータとして利用可能になります。
まとめ
SAP COの標準原価計算は、製品やサービスのコスト管理を最適化するために重要なプロセスです。「マーク」と「リリース」のステップを通じて標準原価を運用データに反映させ、実際のコストと比較することで、コスト管理の精度を向上させます。
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