SAP S/4HANAでは、仕入先や得意先を統合的に管理するために、**BP(ビジネスパートナー)**という概念が導入されています。この記事では、BPマスタ(仕入先)の概要、主な入力項目、設定方法について初心者にもわかりやすく解説します。特に、ECCとS/4HANAの違いに触れながら、S/4HANAでのBPマスタの利点を詳しく説明します。
1. BPマスタ(ビジネスパートナー)とは?
**BP(ビジネスパートナー)**は、SAP S/4HANAで使用される新しい取引先管理の概念で、仕入先や得意先を統一的に管理します。これにより、一つのBPマスタで得意先としても仕入先としても使用可能となり、データの一元管理が実現されます。
BPマスタの利点
- 統合管理: ECCでは仕入先と得意先が別々に管理されていましたが、S/4では一つのBPマスタで管理可能。
- 柔軟性: 業務要件に応じて、BPマスタに得意先ロールまたは仕入先ロールを付与できます。
- データ整合性の向上: 重複データの登録を防ぎ、データの整合性を確保。
2. ECCとS/4HANAにおける違い
T-code | 名称 | ECC | S/4HANA | 補足 |
---|---|---|---|---|
BP | BPマスタ登録・変更・照会 | – | S/4 | BPマスタの登録、変更、照会が可能。 |
XK01 | 仕入先登録(Create Vendor) | ECC | 非推奨 | ECCでは仕入先登録に使用。S/4ではBPに統合。 |
XK02 | 仕入先変更(Change Vendor) | ECC | 非推奨 | ECCでは仕入先変更に使用。S/4ではBPに統合。 |
XK03 | 仕入先照会(Display Vendor) | ECC | 非推奨 | ECCでは仕入先照会に使用。S/4ではBPに統合。 |
S_ALR_87012089 | 仕入先マスタ変更履歴照会 | ECC | S/4 | 更新履歴を会社コードや購買組織をキーに参照可能。 |
3. BPマスタの主な入力項目(詳細)
SAP S/4HANAでBPマスタを登録する際には、入力するべき項目が画面ごとに分かれています。このセクションでは、初心者が迷わないように、各画面での主要な入力項目を詳細に解説します。
第一画面
BPマスタの基本情報を入力する画面です。BP全体の概要を登録します。
- BPコード(Business Partner Number)
- システムが自動採番する場合が多いですが、手動で入力することも可能です。
- 一意の識別番号として使用されます。
- 名称(Name)
- 仕入先の正式名称を入力します。
- 住所(Address)
- 郵便番号、都市名、通りの名称、国コードなどを入力します。
- 連絡先情報(Contact Details)
- 電話番号、メールアドレス、FAX番号を登録します。
- 緊急時の対応や注文に関する連絡を迅速に行うために重要です。
- BPタイプ(Business Partner Type)
- 個人(Individual)、組織(Organization)、グループ(Group)から選択。
BP一般画面
BP全体に関連する追加情報を登録します。
- 税番号(Tax Number)
- VAT番号や税務上の識別番号を入力します。国や地域ごとの税規制に対応するために必要です。
- 取引通貨(Currency)
- 取引に使用する標準通貨を設定します。
- 言語(Language)
- 取引先とのコミュニケーションに使用する言語を指定します。
- 銀行情報(Bank Details)
- 支払先の銀行口座情報を入力します。これには、銀行コード、口座番号、SWIFTコードが含まれます。
仕入先 – 会社(FI仕入先)画面
仕入先の会計情報を管理する画面です。会計伝票転記に必要な重要項目を設定します。
- ① 統制勘定コード(Reconciliation Account, AKONT)
- 買掛金(AP)を転記する際に使用される総勘定元帳の統制勘定を指定します。
- 例: 買掛金勘定(300000)。
- ② 支払条件(Payment Terms, ZTERM)
- 支払の締め日や支払期日を設定します。
- 例: 請求書日付から30日以内に支払う場合、支払条件コード「Z003」を設定。
- ③ 支払方法(Payment Method, PMNTM)
- 銀行振込や小切手など、支払方法を選択します。
- この設定により、会計転記時にAP明細の支払方法が自動的に誘導されます。
- ④ 取引銀行(House Bank)
- 仕入先への支払に使用する自社の銀行口座を設定します。
仕入先 – 購買組織画面
仕入先の購買に関する情報を管理する画面です。
- 購買グループ(Purchasing Group)
- 仕入先と取引する購買担当者や部門を指定します。
- 取引先機能(Partner Function)
- 請求先(Bill-to Party)や受注先(Order Party)など、購買プロセスでの役割を設定します。
- ※注意: 1つのBPコードに対して設定できる取引先機能の上限は1000件です。
- 購買条件(Purchasing Conditions)
- 購入価格や割引率など、取引における標準条件を登録します。
取引先機能の注意点
SAPでは、取引先機能(Partner Function)は購買プロセスで重要な役割を果たします。
特に、請求先や受注先の設定により、伝票作成時のデータ入力が効率化されます。
例: 取引先機能の設定例
- 請求先(BPコード:1000)
購買伝票上で請求書が送られる先。 - 受注先(BPコード:2000)
商品の発注書を送付する先。
入力画面のイメージと操作手順
- BPコードを入力
- T-code:
BP
を入力し、新規作成または既存データの変更を開始。
- T-code:
- 画面分割による入力
- 第一画面、一般画面、FI仕入先画面、購買組織画面ごとにタブを移動して入力を進める。
- 保存の前に確認
- 設定内容を確認し、保存ボタンをクリック。
4. BPマスタの登録・変更・照会方法
登録(T-code:BP)
- T-code:
BP
を入力。 - ロールの選択:
仕入先ロール
を選択。必要に応じて得意先ロールも付与可能。 - 基本情報の入力: BPコード、住所、連絡先情報を登録。
- 会社コード情報の設定: 支払条件や会計情報を入力。
- 購買組織情報の設定: 購買条件や取引先機能を設定。
- 保存: 登録内容を確定。
変更(T-code:BP)
- T-code:
BP
を入力。 - 変更対象のBPコードを指定:
- 必要なロールを選択。
- 変更箇所を修正: 基本情報や会社コード情報、購買組織情報を変更可能。
- 保存: 修正内容を確定。
照会(T-code:BP)
- T-code:
BP
を入力。 - 照会対象のBPコードを指定:
- 必要なロールを選択して情報を確認。
5. 注意点とベストプラクティス
1. 取引先機能の上限
- BPコードに紐付けられる取引先機能(例:請求先)は1000件が上限。これを超える場合はBPコードを分けて運用する必要があります。
2. ECCからの移行
- ECCからS/4HANAへ移行する際、仕入先と得意先データを統合する計画を立てることが重要です。
3. データの一貫性
- BPマスタの登録時に得意先ロールと仕入先ロールを両方付与する場合、関連する財務・購買データとの整合性を確認してください。
6. まとめ
SAP S/4HANAにおける**BPマスタ(仕入先)**は、仕入先や得意先を統合的に管理する強力なツールです。正確な設定を行うことで、データの一貫性を確保し、購買プロセスや会計管理を効率化できます。
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